3つの話を代わる代わるに組み合わせていく、その切り替えの手腕がものすごい。ある夫婦が八王子で殺される。その犯人かもしれない、3人の男たち、そして彼らとふれあいそうして暮らしていく人たち。そこには人と人のわかりあいたい気持ちと、そうして疑ってしまう気持ちがゆらゆらと水面のように光り輝いている。
正直、その3人の誰もを見ている人は疑ってしまう。だから、その中で疑っていたことが間違いだったことを知ったとき、映画の登場人物たちはほっとしてそうして泣いてしまう。疑ってしまった自分が悲しいし、また、犯人でなかったことがうれしくて仕方がないのだ。疑ってしまった自分と、そうでなかったことを喜ぶ爽やかな涼しさ、それをうれしく楽しめる。
そうして犯人だった男の持っていただろう、怒り、に、少し共感しつつ、少し戸惑いつつ、起きてしまったことをただ見つめるしかない。小説を読んだら、この怒りの源流にもう少し触れることができるのだろうか。どうして彼はそんなにも怒りを感じたのか、については映画はあまり踏み込んでいない。
出ている役者たちが演技力に関してはまったく心配のない名優ばかり、そこに重ねて坂本龍一の曲が悲しく重なる。
「怒り」という映画のタイトルに対になるようにしたのか、曲名は「許し」なのだ。怒りという映画の全編を通して「許し」が流れているのもなんだか味わいがある。
ある人物が言っていた台詞が心に残った。
「わかろうとしていないやつに、いくら言っても、わからせることはできないんだ」
本当にそうだよな。
と、身につまされる。