風紋

外資系のソフト会社 コンサル職のおっさんの日々

ツマの午前様

 夜の11:30になっても、息子の小学校の時の友達の母親と飲みに行ったツマが帰ってこなくて心配になった。

「生きてるよね?」

とメールしたが返事がない。

平素はわりとしっかり連絡することをこちらにも強いてくるし、自身もわりと連絡をしてくる方だったので。こちらも油断していて、どの地域に飲みに出かけたのかわからない。どうしたんだろうね、と息子と話す。

「こわいこわい」と高校1年の息子が言った。「死んでいたらどうする?」

「びっくりするね」

とオレは言った。まあ、質問の趣旨はそういうことではないだろうけれど。死んでいたら、もうそれ自身について何もできることはない。お葬式を出すことくらいしか。

まあでも、事件性のあることに巻き込まれていたら警察から連絡が来るだろうと思った。交通事故とかではあるまい。

息子はツマの携帯に電話をかけた。

「でないよ」

と強い語調だった。

さしずめ、熱中症になったとかで病院にでもかつぎこまれたかな、と思った。

大事件になるような可能性は考えにくかった。が、絵の中にポツンと打たれた黒い点のようなもので、絵の中でしめる場所はごくごく小さくても絵の印象を変えてしまうような点だった。そういうこともあるかもしれんな、と頭の片隅で考えないわけにはいかなかった。

すぐにやるべきことを仕事リストにしてしまう自分は反射的に「明日になっても帰らなかったら、交番に失踪届を出さないとならないかな」と思った。

会社も休まないといけないな、と思った。

どの仕事なら調整できるかな、と計算した。

1人で余生を過ごすのは大変そうだと思った。後妻をもらわないとならないのだろうか。だが、うちのキッチンは背が高い人むけなので、背の小さい女性はあの台所は難儀するな、など、いろいろなことを瞬時に考えた。

そんなことになるはずはないという頭と、そういうことになったらどうしたものか、という頭が、それぞれに動いていた。

 

ひとまず今できることはない、という点は明確だったので、台所の洗い物をして、ツマが帰ってきたときのために布団だけ敷いておいてやった。そして自分は横になった。少し気が高ぶっていたが眠れないこともあるまい、と思った。息子も

「寝れるかどうかわからないけれど」

と言い残して自室に戻った。

「生きてます」とツマからメールの返事が0:30頃に届いた。どうやら飲み会が楽しくて時間を忘れたらしい。

息子にそのメールを見せたら「よかったああ」とため息をつくように言った。

数分後に「心配しすぎておなか痛くなった」と彼はトイレに入った。ツマがやがて帰ってきて、オレはその後すぐに寝てしまった。ツマは心配かけたお詫びにと息子の足をもんでやったらしいということを、翌朝聞いた。

 

スマホの位置情報でツマの居所がわかるようにツマに設定してもらった。オレの居所がツマにはわかるようにしていないらしい。なので、どこかのラブホテルに誰かと入ってもスマホの位置情報からそれがばれることはないのだが、そんなことはあるまいと見くびられてもいるのであろう。