寝ながら本を読めるようにとLEDのランタンを買った。一応耐水らしい。枕元に置いて本をこの光で読むのも楽しいが、風呂場を暗くしてこの灯りだけを置いて、そして湯に浸かりながら好きな音楽を聴くという楽しみを始めた。誰も来ない。誰に気を使う必要もない。贅沢がしたたるような孤独な空間。
家族との時間も、同僚との時間も楽しい。しかしこのひとりぼっちの純度の高さは甘露のようだ。
手嶌葵の曲を湯に浸かりながら聴くのが好きだ。
脱衣所の電気も消えると、いよいよあたりは暗くなる。空間の隔絶した感じがさらに色濃くなり、外の世界の悩みや憂鬱も、過去も未来もなにもなくて、まるでこの世にはこの浴室しかないような錯覚が感覚を支配する。
いいや、錯覚でなどではない。
このひととき、本当にこの浴室以外の世界はこの世から消え去り、ただ風呂に浸かる自分と手嶌葵の歌だけが、唯一の実在する存在として世界を小さく照らしているのだ。