6つの短編が所蔵されていていて、どれにも震災が重苦しく暗く影を落としている。震災が話の中心になることはないのだが、震災を知っている日本人は誰もが震災のことをちらりと話の中で読むだけで重くて厳粛な気持になる。どの短編もそれぞれの味があるのだけれど、震災という共通の調味料が少しずつ入っている感じだ。
村上春樹の短編集は6冊くらい読んでいるのだが、この本は、本全体で震災という共通の味を入れたことで本全体のまとまりのようなものが生まれて、これまで読んだどの短編集よりも面白かった。
オレがよく村上春樹を読んでいた頃の彼の作品は、軽くて、乾いていて、もの悲しくて、気が利いていて、遠いところにある感じだった。
この本に出てくる話は、どれも湿っている。読んだ後で心にべったりと張り付いてくるものがある気がする。だから読後感がどれも重くて少し不快だ。どの短編もさらっと終わる。突き放されたように思うくらいだ。余韻がすごい。本を読んだなあという手応えが息苦しいくらいだ。
「神の子どもたち」というタイトルから、その「神」を肯定的にとらえている本かなと勝手に思っていたのだが、この「神」にはもっと意地悪で皮肉なニュアンスのこめられているのだと、このタイトルをつけられた短編を読んでわかった。そして少し驚いた。その味わいをレビューとして表現するのはとても難しい。
村上春樹のあの少し人を馬鹿にしたような文体が嫌いでなくて、現実と幻想がまざったようなふざけた世界観を楽しめる趣味の広さがある人には、この本を強く勧めたい。
これで100円は安い! ありがとうブックオフ。
村上春樹の長編は「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」以外は、オレはあまり評価していない。「ノルウェーの森」「ダンスダンスダンス」「羊をめぐる冒険」「ねじまき鳥クロニクル」しか読んでないのだが・・。これら以外の長編は本屋でパラパラと読んで「なんか違う」といって書棚に戻してしまってきた。
何度も何度も。
この人の真骨頂は短編にあるような気がする。