異動先の部署は200人近くを抱える大所帯。今までが村のようなちいさい世界だった。それが急にマンモス団地に引っ越してきたような変わりよう。その新しい部署で全体会議と慰労会のようなものをおこなった。そこで社員の参加率を高めようということで、大きな会議室でマグロの解体ショーがおこなわれた。
解体したてのマグロを賞味したいと俺も参加したのだが、参加者は100人を超していた。会話できる人は1人くらいしかおらず、そうして年齢層も30代前半くらいが多そうだったのでノリも明るくて軽い感じだった。それでもなんとか居座ってまぐろを食べようと思っていたのだが、飲み会が始まってから30分以上過ぎても解体が始まらない。いつ始まるのかわからない。若者たちが巨大な冷凍されたマグロの前で、面白がってマグロとの2ショットを撮影しているのもなんとなく見ていて落ち着かない。
「自分で釣り上げたわけでもないのに、なんの2ショットなのか」
とか思ってしまう自分は、やはり老人なのか。
なかなか解体が始まらず、ケータリングの食事も食べ尽くされてしまったので、オレはもう居心地が悪くなって帰ることにした。その会議室を出たらちょうど解体ショーが始まった。そこでまた踵を返して解体ショーのまぐろを一口もらおうかと思ったが、ぐるんとマグロを取り囲むようにして若い人たちがスマホで写真を撮影していて、その輪の外からマグロを見ている自分には解体ショーがほとんど見えなかった。
そこまでしてマグロを食べなくてもいいや。
どうせあのブドウは酸っぱいに決まっている、とか、負け惜しみを言った狐のように、冷凍されていたマグロなんてシャクシャクと冷たいに決まっている、と決めつけてその場を去った。ツマにその話をすると「自分なら意地でも一口食べて帰る」といわれて、ちょっと悄然とした。自分がいるべき場ではないな、と感じてしまったので、仕方がなかった。でも、今後近くのスーパーでマグロの解体ショーをしていたら、今度はしっかりマグロを買おうと思うのだった。
その日は悔しいのでお寿司屋さんによって少しいいのを食べて帰った。