風紋

外資系のソフト会社 コンサル職のおっさんの日々

居酒屋兆司

 Amazonで「居酒屋兆司」を検索しても本が見つからなかった。もうこれは幻の一冊なのかもしれない。古本屋で2冊で100円で買ったのだが。

 山口瞳江分利満氏の優雅な生活をオレは持っていて、この本は3回読んでいる。複数回読んでいるのは他には、夏目漱石村上春樹くらいなので、数回読んでいるこの扱いは特別だ。

 さえない電気会社の社員寮で暮らしている、ツマと息子がいる男がいろいろな生活の悲哀の中で頑張って生きているのを読むのが癒やしになる。そうなんだよな、うまくいかないよな、男だって女だって。でも、なんとかみんな目先の小さい「いいこと」をつないで、けなげに生きているよな、という気持ちにさせられる。面白くて読むと言うよりも、なんだかほっとしたいときに開いている。

 山口瞳の文章の行間の広さもなんだか気持ちよいし、不器用な男を描かせたらこれ以上の人はいないのではないかと思う。

 行間が広い。言葉が足らないのだ。登場人物も地の文も。その言葉の足りない感じが小説の中の1つのトーンとして味になっている。