風紋

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表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬

 

表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬

表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬

  • 作者:若林 正恭
  • 発売日: 2017/07/14
  • メディア: 単行本
 

 若林正恭の本が読みたくなったので、アマゾンで購入。文章が美しく、なんといっても飾り気がない。読み手を誘導しようという意図が希薄で、とにかく思ったことを感じたことを書いてくれている。

沢木耕太郎深夜特急シリーズも面白かったが、そこには見たことのない土地での出来事を見聞きするという楽しさがあった。

この若林の本は、キューバにたった1人で初めて一人旅に出たときの話であるが、彼はキューバに行っていろいろなものを見たり、食べたりしているのだけれど、心はずっといつもと変わらない。日本にいるわけでもない。しかしキューバにもいない。どこに行っても溶け込めない感覚、ここは自分のいる場所でないような感覚を持て余している。だから普通の紀行文の面白さに、さらに彼の心の中の持て余し感がずっとにじんでいて、読んでいて、旅の楽しさの中に寂しさのようなものがずっとそこに満ちている。キューバはもちろんいるべき場所ではない、が、しかし日本だって帰りたい場所というわけではない。

なぜキューバに来たのか、の詳しい話はこの本の後半に急に出てくる。

それを読むと重たい気持ちになってくる。

旅の良さは、自分の日常が実は外から見たら非日常で異常なモノなのだ、と、相対化してくれるとことだと思う。やらないといけないと思っていたこと、当然提供されるべきと思っていたこと、やらなくてもいいと思っていたこと、そういうことの見直しを強制される。そんな中で、ああ、これでもいいのだな、と、ものの見方に新しい次元を開いてくれる。このキューバ紀行文はまさにそういう気持ちを味合わせてくれる。

 

予期しないことが起きて、それに対応するのは大変だしくたびれるので、自分はあまり積極的に海外には行きたくない。マレーシアでは財布を盗まれたことがあるし、ドイツでは飛行機に乗り損ねそうになった。はらはらするのは好きではないし、慣れない地でいろいろなことを楽しめるほどに自分は強くないのだ。

だがしかし、最近のようにコロナで家にこもってばかりで、そうして仕事にはりつけにされて、仕事のために生きているのか、生きるために仕事をしているのか、なんだかよくわからない状態になってくると、旅に出たいなという気分になってくる。

 

自分の中で「こうだろう」と思っていたことが、そうでないと揺さぶられるものが身近にあって、それが実は子育てだと思う。

子育ては、未開の地への旅に少し似ていると思う。