連城三紀彦のミステリー短編集。
ミステリーと言っても、誰かが死んで探偵が出てくる、という話ではなく、なぜそんなことがおきたのか、に重点を置いた大正時代の男と女のドラマの裏や側面を美しく照らす物語集。
20年くらい前に読んで感銘してヨメ(結婚する前だけれど)に強く勧めた。ヨメも面白いと当時言っていた。本を読むのが好きでない人とは、何にしても結婚はしないだろうなと自分について思う。物語の面白さもあるのだけれども、日本語の連なりの美しさにほれぼれする。読んでいて気持ちがいい、というのが小説として大切だと思う。読んでいて頭にドーパミンが出るのは、夏目漱石が1番で「明暗」は4回くらい読んだかな。話がどうなるかは知っているのだけれども、ただ、文字を追っているだけで気持ちがいいのだ。さすがお札になるだけの文豪である。
宮部みゆきも同じように文字を追うだけで気持ちが良い。連城三紀彦の小説も、言葉の選び方といい、その音の連なりの美しさといい、ただただ気持ちがいい。
戻り川心中は、あ!そういうことだったのか、というトリックに当たる部分の意外性とその意外性に含まれる悲しさが際立っていて、以前父親に読ませたら、感銘してしまって映画の「戻り川心中」も取り寄せて見ていたくらいだった(映画は駄作だったと思う)。
初期の村上春樹も、内容については賛否両論あると思うが、読んでいるだけで頭の奥がツンとするような言葉の連なりを提供していてくれたと思う。