ツマに先立たれた大学教授がつつましく残っているお金の計算をしながら1人暮らしをしている。物語はその彼の心の様子と暮らしぶりを、様々な角度から照らしていく。が、「残像に口紅を」を読んだ読者ならわかる。帯に書いてある「恍惚の予感」はこの小説の中ではきっと「崩壊の予感」に違いない。楽しみなので先を見たりはしていないのだが、筒井康隆のことなので次第に支離滅裂になっていくのだろう。いろいろなぶっこわれを筒井康隆は書いてきたが、老化によるボケに起因する支離滅裂は、おかしいのと同時に悲しい。その悲しい感じを見せつつ、現実味のあるボケの世界を表現していくのだろう。全体で40章くらいあるうちの、6章くらいまでしか読んでいない。まだ理性的であるし、論理的である主人公なのだが、これもだんだんとだめになっていくのかもしれない。こういう構成「アルジャーノンに花束を」でも見たことがあり、この小説の後半はほかに似たものを見ない悲しみを感じさせたものだが、これはそれと同じようなものを味わせてくれるかもしれない。